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2026年10月9日 · 約5分

パキスタン、太陽光ブームで電気代が高くなる?

高い電気代から逃れるため、家や店が次々と太陽光パネルを設置した。ところが電力会社の収入が減っても、発電所や送電網の固定費は残る。さらに政府が見直した制度は、急増する太陽光の「一部」にしか直接届かない。

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Aerial cityscape showing residential buildings and solar panels under a cloudy sky.

高い電気代から逃れるため、家や店が次々と太陽光パネルを設置した。ところが電力会社の収入が減っても、発電所や送電網の固定費は残る。さらに政府が見直した制度は、急増する太陽光の「一部」にしか直接届かない。

屋根にパネルを載せたら、国の電力網が困り始めた

暑い昼間、電気代の請求書を気にせず扇風機を回せたら。パキスタンでは、そんな暮らしを求めて家や店、工場が太陽光パネルを設置している。高い電気代や停電に悩まされてきた人にとって、屋根の上の発電設備は自分の生活を守る手段だ。

ところが2026年10月8日、現地メディアは、送電網へ売られた太陽光電力の量が8月に前月比27.2%減ったと報じた。これは太陽光設備の設置件数が27.2%減ったという意味ではなく、季節変動などもあり、制度変更の効果だとは断定できない。それでも急成長してきた太陽光と電力網の関係が揺れていることを示す話題になった。

電気を自分でつくる人が増える。環境にも家計にもよさそうなのに、なぜ電力会社と、太陽光を持たない家庭の負担が問題になるのだろう。

太陽光が増えたのは、政府の計画が成功したからではない

パキスタンの太陽光拡大は、政府が大規模発電所を順番に建てた結果というより、家庭や企業が自分で導入した動きが中心だ。背景には、電力網から買う電気の値上がりと、輸入される太陽光パネルの値下がりがあった。

世界資源研究所(WRI)の2025年の分析によると、電気料金は3年間で155%上昇。一方、世界的な太陽光パネル価格は中国の供給増などでほぼ半減した。電力網から高い電気を買い続けるより、初期費用を払って自分でつくる方が得になる家庭や事業者が増えた。

この動きは富裕層の住宅だけではない。地方では送電網が届きにくい家が独立型の太陽光設備を使い、農家もディーゼルで動かしていた地下水ポンプを太陽光に替えている。人々が必要に迫られて選んだことが、国の電力システムを変え始めた。

電力会社の売上が減っても、発電所の請求書は残る

ここから話が少し変わる。電力会社が家庭へ売る電気の量が減っても、電力網を維持する費用は同じ割合では減らない。送電線の保守や、夜や曇りの日にも電気を供給できる発電能力にはお金がかかる。

特にパキスタンでは、発電所が実際に電気をつくった量とは別に、発電できる状態を確保するための支払い「容量支払い」が重い。使われない時間があっても契約上の費用が発生する。電気の販売量だけが減れば、固定費を回収する仕組みは苦しくなる。

例えば、100世帯で共同の設備費を負担していた建物を想像してほしい。30世帯が自家発電に切り替え、共用設備から買う電気を減らしても、共用設備そのものは必要だ。費用の分担方法を変えなければ、残る世帯の負担が重くなる可能性がある。もちろん実際の電気料金は補助金や契約見直しなどでも変わるため、太陽光の普及だけで値上げが決まるわけではない。

電気を自給できる家庭ほど、値上がりから逃げやすい

問題は誰が屋根にパネルを載せられるかだ。設置費用を先に用意できる家庭や工場は、電力網から買う電気を減らしやすい。十分な貯金や屋根を持たない家庭は、電気代が高くても簡単には切り替えられない。

これは「太陽光はお金持ちのもの」という単純な話ではない。送電網のない地域では、小型の独立型設備がむしろ電気へのアクセスを広げている。農家の燃料費も下げられる。恩恵は確かにある。

ただ、都市の電力網につながった利用者同士で見ると、初期投資できる人ほど高い料金を避けられ、そうでない人が既存の電力網を支える費用を多く負担しかねない。環境に良い技術が広がっても、料金制度の設計次第では負担が公平になるとは限らない。

政府は「昼に売った電気」と「夜に買う電気」を分けた

そこで規制当局NEPRAは2026年2月、太陽光の余剰電力の精算方法を変えた。以前のネットメータリングでは、昼に送電網へ送った電力量を、夜に買う電力量と相殺できた。送電網を大きな無料の電池のように使える側面があった。

新しいネットビリングでは、送った電気は所定の買取価格で評価し、送電網から買う電気は通常の小売料金で計算する。昼に1キロワット時売っても、夜に1キロワット時を無料で使えるわけではない。太陽光利用者にとっては以前より不利になり得る。

一方、既に旧制度で契約していた利用者は、4月の規則改正で原則として契約満了まで従来の精算条件が守られた。制度の急変更に反発が出たことを受けた対応だ。政府は、太陽光の導入を促すことと、電力網の費用を公平に回収することの間で調整を迫られている。

でも新ルールが直接扱うのは、太陽光全体の一部だった

そして、もう一つ予想外の数字がある。調査団体Renewables Firstは、2024〜25年度末のパキスタンの分散型太陽光設備を約38ギガワットと推計した。そのうち、電力網へ売電するネットメータリング設備は約6.8ギガワット。残る約31ギガワットは、自家消費中心や独立型の設備だった。

つまり、容量ベースで見ると分散型太陽光の約8割は、売電の精算方法を変えるだけでは直接扱えない。政府が変更したのは主に「電力網と売り買いする人」のルールで、国全体の太陽光利用はもっと広い。

同じ調査では、2024〜25年度の分散型太陽光の発電量を約51テラワット時と推計した。これは電力網から販売された約111テラワット時の46%に相当する規模だ。46%は国の総発電量に占める割合ではなく、比較対象が「電力網の販売量」である点に注意したい。

太陽光が急増しているのに、公式統計や制度が見ているのは一部分。電気をつくる場所が変わったのに、電気を売って費用を回収する仕組みは古いままだった。

必要なのは太陽光を止めることではなく、電力網の役割を変えること

では、太陽光を減らすべきなのか。そう考えるのは早い。太陽光は高額な燃料輸入を抑え、停電の影響を和らげ、電力が届きにくい地域にも選択肢を与える。導入した人の行動にも理由がある。

むしろ必要なのは、昼間の余剰電力を蓄えたり、送電網を強化したり、固定費を誰がどのように負担するかを見直したりすることだ。世界銀行は2026年7月、パキスタンの送電網を安定させ、再生可能エネルギーを取り込みやすくする事業へ3億7,590万ドルの融資を承認した。

もちろん蓄電池や送電網の更新には新たな費用がかかる。既存の発電契約を見直すにも時間が必要だ。料金改革だけで低所得世帯の負担が減る保証はない。それでも、太陽光を敵にするのではなく、電気の流れ方に合わせて制度を作り替える方が筋が通る。

太陽光の問題ではなく、電気代を分け合うルールの問題

パキスタンで起きているのは、「太陽光は良いか悪いか」という単純な対立ではない。高い電気代から逃れようとした人々の合理的な選択が、電力会社の収入の前提を変えた。さらに、政府の売電ルール変更は、増え続ける太陽光の全体像を直接カバーできない。

日本でも、屋根の上で電気をつくる家庭と、電力網だけに頼る家庭がいる。誰が送電網を使い、誰が維持費を払い、誰が補助を受けるのか。普及率だけを見ていると、そこは見えにくい。

太陽光が増えたことは成功かもしれない。でも、その成功の費用を誰が払うのかまで考えなければ、エネルギー転換は公平にはならない。

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