モンゴル、1つの学校に6,800人?
都市では学校が足りず、地方では生徒が減る。同じ人口移動が、正反対の問題を生んでいる。

1校に、定員の約3倍が通っている
朝、学校へ着く。でも自分の教室は、その学校の建物にはない。
2026年9月、ウランバートルの公立第14学校では、生徒が6か所に分かれて授業を受けていると報じられた。本来約2,300人向けの施設に、生徒は6,800人超。3部制を避けるため、元大学の建物などを借り、900人を超える高校生も別の場所へ移している。
モンゴルの学校不足は、単純な「子どもが増えたから」だけではない。ここで面白いのは、同じ国の別の場所では逆のことが起きてきた点だ。地方では子どもや教師が減り、学校を維持すること自体が難しい地域がある。
なぜ、学校が余る場所と足りない場所が同時に生まれるのだろう。
学校が足りないのは、ウランバートルに人が集まるから
モンゴルは世界でも人口密度の低い国の一つだが、人口は均等に散らばっているわけではない。
地方から首都ウランバートルへ人が移り、さらに首都の中でも住宅開発が進む地区へ人口が集中する。学校の建設速度より、街の人口が増える速度のほうが速ければ、既存校に生徒が押し込まれる。
JICAは以前から、地方から都市への人口流入によってウランバートルの教育施設不足が深刻化し、50人規模の過密学級や3部制が生じていると説明してきた。
2026年9月、ADBも学校の過密化と複数シフトを「急速な人口増加と都市化」による継続的な圧力として挙げ、学校・幼稚園33施設の建設・拡張に1億3,000万ドルの融資を承認した。新たに約1万1,000人分の受け皿を作る計画だ。
でも、地方では「生徒が少ない」が問題になる
ここで話が反転する。
人が都市へ移れば、出発した地方では子どもが減る。古くからモンゴルの教育政策では、人口流出によって小規模な地方学校の利用率が下がる一方、都市部の学校が過密になるという「両側の問題」が指摘されてきた。
建物は動かせない。地方で空いた教室を、そのままウランバートルへ運ぶことはできない。
学校は道路や水道と同じインフラだ。人口が移動すると、昨日までちょうどよかった配置が、急に合わなくなる。
つまり全国で学校が一律に不足しているのではない。「学校がある場所」と「子どもがいる場所」がずれていく。
教師も、同じ方向へ動く
第二のずれは教師だ。
GPE KIXが公開するモンゴルの教員人材に関する調査では、15歳の生徒の38%が「資格を持つ教員の不足で授業が妨げられている学校」に在籍しているとされ、OECD平均25%を上回る。
ただし教師不足も全国一様ではない。
地方では数学、英語、物理、ICTなどの専門教員を確保しにくい。大学進学で首都へ出た若者が、そのまま都市で働くことを望む傾向も指摘されてきた。
一方、都市では生徒そのものが集中するため、一つの学校や一つの教室へ負荷がかかる。
子どもも教師も都市へ向かうのに、学校建物の供給は同じ速度では動かない。ここに「地方の人材不足」と「都市の過密」が同時に生まれる。
6,800人の学校は、全国の問題を小さく映している
第14学校の数字が強烈なのは、6,800人という大きさだけではない。
学校を6か所に分散し、借りた建物でも45〜52人規模のクラスがあると報じられている。生徒数が増えれば、教室だけでなく食堂、換気、実験設備、体育施設、移動時間などにも負荷がかかる。
「校舎を一つ建てれば終わり」とも限らない。新しい住宅地ができ、人がさらに移れば、数年後には別の地区で同じ不足が起こりうる。
教育インフラには、人口の現在地だけでなく「次にどこへ動くか」を読む力が必要になる。
33施設を増やす。でも建設だけでは追いつかない
ADBの2026年の追加融資では、12施設をウランバートル、21施設を地方のアイマグに整備する。都市の過密だけでなく、サービスが不足する地方も対象だ。
ここにもモンゴル特有の難しさがある。
都市では「多すぎる生徒」に対応し、地方では広大な土地に散らばる「少ない生徒」に教育を届けなければならない。前者は大規模校や新設校が必要になり、後者は少人数でも学校、寄宿舎、教師を維持するコストがかかる。
効率だけを考えて地方校を集約すれば、遊牧・牧畜世帯などの子どもは学校からさらに遠くなる。一方、すべての地域に同じ規模の施設を置けば、人口減少地域では空きが増える。
「足りない場所へ作る」だけではなく、人口移動と教育アクセスを同時に考える必要がある。
モンゴルで不足しているのは、学校の「数」だけではない
ウランバートルの過密校を見ると、「もっと学校を建てればいい」と思う。
もちろん建設は必要だ。だが、問題の奥には人口の移動がある。
地方から都市へ、都市の中心から新しい住宅地へ。人が動くたびに、学校と教師の配置は古くなる。
だからモンゴルでは、地方の学校が小さくなっていることと、都市の学校が6か所に分かれるほど膨らむことが、同じ原因の表と裏になりうる。
学校不足とは、校舎の総数が少ないことだけではない。
「子どもがいる場所に、学校がない」。
そのずれをどれだけ早く埋められるかが、都市化する国の教育を左右している。
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