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2026年9月20日 · 約5分

調査は増えた。でも、子どもは安全になった? 英国の児童保護制度が示した「活動量」と「成果」のズレ

警察・医療・教育・福祉が情報を共有すれば、子どもをもっと守れるはず。ところが英国の全国研究では、調査が増えても安全性の改善は確認されませんでした。

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ケースファイルが置かれた多機関連携の会議室を象徴する暗めのドキュメンタリー画像

「連携を増やせば、子どもはもっと守れる」は本当か

警察、医療、教育、ソーシャルワーカーが同じ場所で情報を共有する。子どもを虐待や深刻な危険から守る仕組みとしては、直感的にかなり合理的に見えます。イングランドでは、こうした複数機関をつなぐ仕組みとしてMASH(Multi-Agency Safeguarding Hub)が広がってきました。ところが2026年に公表された全国規模の研究は、意外な結果を示しました。MASHのある自治体では児童保護調査が大きく増えた一方、児童保護計画や深刻な被害・子どもの死亡といった結果には、明確な改善が確認できなかったのです。

調査は増えた。でも「守れた子ども」が同じ割合で増えたわけではない

研究チームは、イングランド130自治体から得た情報公開請求の回答と、2010〜2024年の国の行政データを組み合わせました。MASH導入後の自治体では、Children Act 1989のSection 47に基づく児童保護調査がより急速に増加しました。別の報告では、導入から1年の地域で調査率が子ども1万人あたり194件、MASHのない地域では109件とされています。一方、調査後に児童保護計画へ進む割合は同じようには増えませんでした。全国ではSection 47調査が2009/10年度の89,300件から2023/24年度の224,520件へ増えた一方、新たな児童保護計画は44,300件から62,110件への増加にとどまり、調査後に計画へ進む割合は約50%から28%へ低下しました。

なぜ「たくさん調べる」と「安全になる」は同じではないのか

MASHの基本思想は、複数機関が持つ断片的な情報を集め、危険を早く見つけることです。しかし、情報が増えれば疑わしいケースも増え、調査対象が広がります。問題は、その追加調査が本当に深刻な危険の発見につながっているかです。今回の研究では、MASHのある地域で児童保護計画が比例して増えず、深刻な被害や死亡を示す指標にも有意な差が確認されませんでした。つまり『見つける仕組みを強くすること』と『被害そのものを減らすこと』は別の課題かもしれません。

ただし、この研究だけで「MASHが悪い」とは言えない

ここは重要です。この研究は観察研究であり、MASHが調査増加を直接引き起こしたと完全に証明したわけではありません。MASHを導入した自治体には、もともと児童保護上の課題が大きかったなど、別の違いが存在する可能性があります。また、重大な被害や死亡は比較的まれなため、制度の効果を統計的に検出すること自体が難しい面もあります。研究が示しているのは『MASHは無意味だ』ではなく、『調査件数が増えたことを、そのまま安全性向上の証拠にはできない』という警告です。

制度の成功を「活動量」で測る落とし穴

この話は児童保護だけの問題ではありません。社会課題への取り組みでは、会議数、相談件数、支援件数、参加者数など、数えやすい数字が成果として使われがちです。しかし、それらは多くの場合アウトプットであり、生活が改善したか、被害が減ったかというアウトカムとは違います。100件調査した制度と200件調査した制度を比べて、後者の方が優れているとは限りません。むしろ調査が増えれば、家族への心理的負担やソーシャルワーカーの業務量も増える可能性があります。

それでも英国は、似た考え方の制度を全国へ広げようとしている

この研究が注目されるもう一つの理由はタイミングです。英国ではChildren’s Wellbeing and Schools Act 2026のもと、複数機関が連携するMulti-Agency Child Protection Teamsを全自治体に整備する方向が進んでいます。研究者たちは、既存のMASHについて結果ベースの証拠が弱いまま、似たモデルを全国展開することに疑問を投げかけています。悲惨な事件の後には『もっと情報共有を』『もっと調査を』という対応が求められやすい。しかし、本当に必要なのは制度を増やすことではなく、何が子どもの被害を実際に減らしたのかを測ることです。

「良い仕組み」に見えるほど、結果を確かめる必要がある

警察、学校、医療、福祉が連携すること自体は、間違っているようには見えません。だからこそ、この研究は面白いのです。社会課題では、仕組みの見た目の合理性と、現実の成果が一致するとは限りません。『何人を調べたか』ではなく『何人がより安全になったか』。社会を良くする制度を考えるとき、私たちが見るべき数字は、活動の多さではなく、その先にある変化なのかもしれません。

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