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2026年9月27日 · 約5分

水道はある。でも、水が来るのは週に一度。ヨルダンの「水をためて暮らす」日常

水道普及率が高くても、水が毎日出るとは限らない。屋上タンクと給水車から、世界有数の水不足国の日常を読む。

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White water tanks on a rooftop with architectural design, under a gray sky.

蛇口から水が出るのは、「週に一度」

ヨルダンでは、水道管につながっている家でも、蛇口から毎日水が出るとは限らない。

UNICEF Jordanによると、都市部では人口の96.2%が水道網につながっている一方、人口のおよそ半分が水を受け取れるのは週に一度。地方では夏になると、さらに間隔が空く地域もある。

そのため、街を歩くと屋根の上に大きな貯水タンクが並ぶ。水が来る曜日と時間にタンクへため、次の給水までその水で暮らす。つまり水道は「いつでも使えるサービス」ではなく、「決められた時間に届くもの」でもある。

日本で断水は非常事態だが、ヨルダンでは断続的な給水そのものが日常の仕組みに組み込まれている。

なぜ、毎日流せるだけの水がないのか

ヨルダンは世界でも特に水資源が少ない国の一つだ。

政府のNational Water Strategy 2023–2040では、2021年の再生可能な淡水資源は一人あたり年間61立方メートル。一般に「絶対的水不足」の目安とされる500立方メートルを大きく下回る。

原因は一つではない。もともと乾燥した気候で雨が少ない。地下水は自然に回復する以上の速度でくみ上げられ、UNICEFによれば主要12帯水層のうち10が過剰利用状態にある。人口増加、周辺国からの難民流入、農業や産業の需要、気候変動も同時に圧力をかける。

さらに、水源から家庭まで運ぶ途中の漏水、メーターの問題、不正接続などによる「無収水」も大きい。水不足は単に雨が降らない問題ではなく、地理、人口、インフラ、政治が重なった問題だ。

だから、屋根のタンクが「生活インフラ」になった

給水が週に一度なら、家庭は一週間分を保存しなければならない。

そこで住宅の屋根や敷地には貯水タンクが置かれる。給水日には水道水をため、料理、洗濯、シャワー、掃除などに少しずつ使う。残量を考えながら生活することになる。

同じ都市でも事情は同じではない。大きなタンクを設置できる家、複数のタンクを持てる家、給水が不足した時に追加の水を買える家は対応しやすい。一方、所得が低い世帯ほど設備や追加購入の負担が重くなる。

「水道普及率96%」という数字だけを見ると、多くの家庭に十分な水が届いているように見える。しかし、水道管につながっていることと、必要な時に必要な量の水を使えることは別だ。

水が足りなくなると、トラックがやってくる

貯水タンクが空になれば、民間の給水車から水を買うという選択肢がある。

ここでヨルダンの水問題はさらに複雑になる。

Nature Sustainabilityに掲載された研究は、都市へ水を運ぶタンカー市場を分析した。推計では、タンカー水は都市の飲料水供給の15%を担う一方、その販売量の多くは公式記録に現れない。無規制の販売量は政府が認めた井戸取水量の10.7倍と推定された。

しかもタンカー水は水道水より平均約4.8倍高い。それでも公共給水が一人一日40リットル未満しか届かない世帯の92%がタンカー水を利用していた。

高い。でも、ないと困る。

ここに単純な「違法だから止めればいい」では解けない矛盾がある。

違法な水が、生活を支えてしまう矛盾

地下水の無許可取水は、水資源をさらに減らす。研究では、タンカー市場による取水は持続可能な量を超えてくみ上げられる地下水の27%に相当すると推計された。

つまり、今の不足を埋めるために水を売るほど、将来の水源を削る可能性がある。

一方で、違法井戸やタンカーを一斉に止めれば、公共水道だけでは足りない家庭が先に困る。研究チームも、非公式市場が水不足の世帯にとって重要な「命綱」になっていると指摘する。

実際、2026年9月にもヨルダン当局は各地で違法井戸や水道管への不正接続を摘発している。9月22日にはザルカで、約3キロの不正な支線が約90戸の住宅や農場などへ水を送っていたとして撤去された。

ルール違反を取り締まる必要と、そもそもなぜ違法な水が必要とされるのかという問題は、同時に考えなければならない。

「水がある人」と「買わなければならない人」

水不足は全員に同じ形で降りかかるわけではない。

十分な貯水設備がある家庭は、短い給水時間を乗り切りやすい。追加のタンカー水を買える家庭や企業も対応できる。しかし所得が低いほど、高価な水の購入は家計を圧迫する。

さらに、水圧や地域の標高、配水網の状態によっても届き方は変わる。統計上は同じ「水道接続世帯」でも、実際の水へのアクセスには差がある。

水不足というと、ダムの貯水率や降水量に目が向きやすい。しかし家庭から見ると、それは「今日は洗濯するか」「シャワーを短くするか」「タンクを追加で買えるか」という日常の判断になる。

社会課題は、大きな数字だけでなく、時間と手間と家計の差として現れる。

海水淡水化で、すべて解決するのか

ヨルダンは供給を増やす大規模事業も進めている。アカバ湾の海水を淡水化し、約450キロ離れたアンマン方面まで送る国家水輸送プロジェクトは、年間3億立方メートルの水を供給する計画だ。

同時に、老朽管の更新や漏水削減、地下水管理も重要になる。

ただ、新しい水源をつくるだけでは、配水網から大量の水が失われる問題や、地域・所得によるアクセス差は自動的には消えない。Nature Sustainabilityの研究でも、大規模な淡水化だけではタンカー市場への依存を完全にはなくせないと試算されている。

水不足には「水を増やす」だけでなく、「どう配るか」「誰がいくら払うか」「失われる水をどう減らすか」という制度の問題がある。

蛇口は、社会の仕組みにつながっている

ヨルダンの屋根に並ぶ貯水タンクは、単なる生活用品ではない。

週に一度しか来ない水を一週間に引き延ばすための装置であり、国の水不足を家庭側が吸収する仕組みでもある。

そして水が足りない時には、給水車という市場が隙間を埋める。その市場の一部は違法な地下水に依存し、将来の水不足を悪化させる。それでも今日の生活には必要とされる。

「蛇口をひねれば水が出る」という日常は、自然に存在するものではない。

十分な水源、配管、電力、行政、料金制度、そして公平な配分がそろって初めて成立する。

ヨルダンを見ると、水不足とは単に「水が少ない国」の話ではなく、限られた水を社会がどう分け、家庭がどう不足を引き受けるかという問題だと分かる。日本で毎日使っている蛇口の向こう側にも、本当は同じ仕組みがある。

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