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2026年9月28日 · 約5分

オーストラリア、高齢者に500問。それでも判定にほぼ使われない?

500項目以上を聞き取るのに、最終判定に使われる情報は一部だけ。なぜそんな仕組みが生まれたのか。

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An elderly woman checks the temperature of a senior man using a digital thermometer indoors.

オーストラリアで高齢者が自宅介護の支援を申請すると、専門の評価者が本人の暮らしについて詳しく聞いていく。

歩けるか。食事はできるか。認知機能に問題はないか。家族からどの程度支援を受けられるか。

使われるのは、Integrated Assessment Tool(IAT)※1と呼ばれる評価ツールだ。ABCの調査によると、ここには500を超える質問と、100以上の自由記述欄がある。

ここまで聞くなら、一人ひとりの事情をかなり細かく判定に反映してくれそうだ。

ところが、その後が意外だ。

ABCは、最終的な支援分類を決めるアルゴリズムが使うのは、IATで集めた情報の一部だと報じている。評価者が本人の事情を書き込む自由記述欄も、アルゴリズムの計算には使われない。

では、なぜ500項目以上も聞くのか。

そして、目の前の高齢者を実際に見た専門職より、標準化された分類を優先する仕組みは、なぜ生まれたのだろう。

500問は、無駄な質問ではない

まず誤解しやすいのは、「判定に使わない質問なら、聞く意味がない」ということだ。

IATそのものは、最終的な資金分類だけのために存在しているわけではない。

オーストラリア政府によると、IATは在宅支援、短期ケア、施設入居など、高齢者がどんなサービスを必要としているかを幅広く把握するために使われる。回答によって追加質問が表示される仕組みもあり、本人の状態に応じて評価を深掘りする。

つまり、500を超える質問すべてが全員に同じように出されるわけではない。

それでも、ここに一つのズレがある。

「本人を理解するための情報」と「支援額を分類するための情報」は、同じではない。

評価者は本人を理解するために多くの情報を集める。一方、最終分類では、その中から一定の項目だけが計算に入る。

文章で書いた事情は、計算されない

ABCの報道で特に議論になったのが、自由記述欄だ。

評価者は、チェックボックスだけでは表しにくい本人の事情を文章で記録できる。

たとえば、同じ「歩行に困難がある」という人でも、一人暮らしか、家族が毎日来られるか、家の構造はどうか、病気が急速に進んでいるかで、必要な支援は変わる。

人が読めば、そうした文脈は重要に見える。

しかし、分類アルゴリズムは自由記述そのものを読んで判断するわけではない。

ここで問題になるのは、「情報を集めているか」ではなく、どの情報を最終判定に重く使うかだ。

しかも、評価者がその場で直せるわけではない

さらに議論を大きくしたのが、評価者とアルゴリズムの関係だった。

2026年3月、ABCは、評価者がアルゴリズムの結果を自分の判断だけで上書きできない仕組みだと報じた。

もし評価者が「この人にはもっと支援が必要だ」と感じても、その場で分類を一段上げる、といった単純な変更はできない。

もちろん、結果が永久に固定されるわけではない。

政府の手続きでは、評価内容の見直しやレビューを求めるルートが用意されている。Assessment Delegateが評価を確認し、必要に応じて修正につなげる仕組みもある。

それでも、現場の専門職が「自分の臨床判断で最終分類を変える」仕組みではない。

ここまで聞くと、「なぜそんなに機械を信用するのか」と思うかもしれない。

しかし、制度を作った側の目的は、むしろ逆だった。

目的は「人間を減らす」ことではなく、「ばらつきを減らす」こと

オーストラリア政府は、IATの分類アルゴリズムを導入した理由の一つとして、一貫性と公平性を挙げている。

担当者Aなら高い支援、担当者Bなら低い支援。

同じような状態なのに、評価する人の経験や主観によって結果が変われば、それもまた不公平だ。

政府のマニュアルでは、似た臨床ニーズを持つ人が同じ水準の資金を受けられること、個人の裁量や主観的判断の影響を減らすことが目的として説明されている。

つまり、アルゴリズムは「人より賢いから」使われているわけではない。

人による判断のばらつきを抑えるために使われている。

ここが、この問題の一番面白いところだ。

公平さと、個別事情は両立できるのか

同じ基準で判断することは、公平に見える。

一方で、高齢者の生活は同じ項目だけでは表しきれない。

病名が同じでも、家族構成、住環境、病気の進行速度、本人の希望によって必要な支援は変わる。

人間に任せれば、そうした事情を柔軟に拾えるかもしれない。

しかし、人によって判断が変わる。

アルゴリズムに寄せれば、同じ基準を適用しやすい。

しかし、基準に入っていない事情は、最終分類では弱くなる。

これは「AIか、人間か」という単純な話ではない。

むしろ、公平にするために何を同じにし、何を個別に見るのかという制度設計の問題だ。

学校の入試、就職の選考、保険の審査、福祉の給付。

私たちの周りにも、「多くの情報を集めたうえで、最後は一定の基準で分類する」仕組みはたくさんある。

500項目を聞くこと自体よりも、重要なのはその先だ。

集めた情報のうち、何を「重要」と決めるのか。

公平な制度を作ろうとするとき、そこには必ず、人間が決めた線引きが残る。

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