街に住んでいるのに、道路も下水もない。ナミビアで「都市化」がインフラより先に進んでいる。
首都ウィントフックを含むナミビアの都市では、人が集まる速さに住宅・道路・水道・下水の整備が追いついていない。最新データから見えるのは、「都市に移れば都市の暮らしになる」とは限らない現実だ。

首都ウィントフックを含むナミビアの都市では、人が集まる速さに住宅・道路・水道・下水の整備が追いついていない。最新データから見えるのは、「都市に移れば都市の暮らしになる」とは限らない現実だ。
「都市に住む」と「都市のインフラで暮らす」は、同じではなかった
アフリカ南西部のナミビア。首都ウィントフックには高層ビルやショッピングモールがあり、人口の約半分が都市部で暮らしている。
それでも、その都市の中には道路も下水も正式な水道網もない地域が広がっている。
2026年2月、ナミビア統計局と都市・農村開発省が初の全国的な「Informal Settlements Baseline Report」を公表した。全国で都市的な非公式性を持つ563地区を確認し、そのうち419地区をインフォーマル居住区に分類した。
さらに2026年8月にThe Namibianが報告書を分析したところ、419地区の93%には正式な道路がなく、86%には下水道がなく、70%には大規模な水道網がなく、70%には電力網がないとされた。
ここで注意したいのは、「水道網がない=水が一滴もない」という意味ではないことだ。共同の給水栓や簡易的な設備を使える地域もある。だが、家ごとにつながる都市インフラとは大きく違う。
都市の中にいるのに、都市の基本設備から外れている。
ナミビアでは、その状態が一部の例外ではなく、都市成長そのものの大きな特徴になっている。
なぜ人は、インフラのない場所へ集まるのか
「そんなに不便なら、なぜそこに住むのか」と思うかもしれない。
問題は、都市へ来ることと、正式な住宅を買えることの間に大きな壁があることだ。
ナミビア統計局によると、国全体の人口は2011年の約211万人から2023年には約302万人へ増えた。都市人口の割合も上昇し、ほぼ半数が都市部に住むようになった。
都市には仕事、学校、病院、行政サービスが集まる。地方から移る理由は十分にある。一方で、土地を正式に整備し、道路を通し、水道・下水・電気を引き、住宅を建てるには時間と資金がかかる。
2026年9月にThe Namibianが報じた住宅価格では、平均的な住宅を購入するために必要とされる月収は約4万4,000ナミビアドル。住宅供給が人口増加に追いつかず、既存住宅の価格が押し上げられていると住宅専門家は指摘する。
つまり、人々が「インフォーマルな暮らしを好んで選んでいる」と単純化すると構造を見誤る。
都市へ行く必要はある。しかし正式な住宅市場には入れない。その間を埋める形で、トタンなどで建てた住居が先に増えていく。
街は後から追いつこうとする。でも、後から道路や下水を入れるのは難しい
住宅が先に密集し、その後からインフラを入れようとすると別の問題が起きる。
道路を通すには空間が必要だ。下水管には勾配やルートが必要で、水道や電線にも設備用地がいる。ところが家が無計画に密集した後では、一本の道路や管を通すだけでも住宅の移転や土地調整が必要になる。
最新のベースライン報告では、60%以上のインフォーマル居住区が「混雑している」と分類された。首都ウィントフックだけでも150地区が確認され、正式な基幹サービスを欠く地区が集中している。
土地の権利も重要だ。報告では居住証明書を持つ住民は約33.9%にとどまる。土地の利用権が曖昧なままだと、住民は「ここに長く住めるのか」が分からず、行政側もどの土地に恒久的なインフラを整備するか難しい判断を迫られる。
インフォーマル居住区は「家が足りない」という一つの問題ではない。
住宅、土地権利、都市計画、道路、水、下水、電力が絡み合い、一つの遅れが次の整備を難しくする。
一番見えにくいのは、毎日の時間と安全のコスト
インフラ不足は、統計表の「道路なし」「下水なし」で終わらない。
家に水道がなければ、共同の給水場所まで容器を運ぶ時間が必要になる。安全なトイレが近くになければ、夜間や子ども、女性にとって衛生だけでなく安全の問題にもなる。雨が降れば未舗装路が移動を難しくし、救急車や消防車が入りにくい場所も生まれる。
UNICEF Namibiaは2026年9月、ナミビア全体で改善された衛生設備を利用できる人は66.6%で、47.2%が依然として屋外排泄を行っていると説明した。都市と農村で状況は異なるが、衛生設備の不足が子どもの健康、学校生活、女性や少女の安全と尊厳に直結すると強調している。
ここに都市格差の見えにくさがある。
同じ街に住み、同じ学校や仕事場へ向かっていても、ある家庭は蛇口をひねれば水が出る。別の家庭は水を運ぶところから一日が始まる。
住所が「都市」になっただけでは、生活条件まで自動的に都市化するわけではない。
では、全部取り壊して正式な住宅を建てればいいのか
これも単純ではない。
インフォーマル居住区には、すでに人間関係、仕事へのアクセス、学校、商売、地域コミュニティがある。遠くの住宅へ一括移転すれば、家は良くなっても通勤費が増えたり、仕事や助け合いのネットワークを失ったりする可能性がある。
そのためナミビアでは、住民が暮らしたまま段階的に土地や住宅を改善する「in-situ upgrading」も試されている。
UN-Habitatが2026年に紹介したShack Dwellers Federation of Namibiaの取り組みでは、住民自身の貯蓄グループ、土地の調査、自治体との交渉、段階的な住宅建設を組み合わせている。コミュニティ主導型の住宅は、従来型より低い費用で建設できる事例も報告されている。
一方、政府も2028/29年度までにインフォーマル居住区を50%減らす目標を掲げ、土地整備や住宅建設を進めている。
ただし、419地区の多くで複数の基幹サービスが同時に不足している。道路だけ、水道だけ、家だけを整備して終わる問題ではない。
これは遠い国の「スラム問題」ではなく、都市が成長する順番の問題
ナミビアの状況を「貧しい国の特殊な話」として見ると、大事な部分を見落とす。
世界中で人は仕事や教育を求めて都市へ集まる。しかし、人間は今日移動できても、道路や下水道は明日には完成しない。住宅市場も、低所得の人に必要な速さと価格で家を供給できるとは限らない。
その時間差が大きくなると、「都市化した人口」と「都市化したインフラ」の間に空白が生まれる。
ナミビアの新しい全国データが可視化したのは、その空白だ。
93%に正式な道路がない、という数字だけを見ると衝撃的だ。しかし本当に考えたいのは、なぜ道路がない場所にこれほど多くの人が暮らすことになったのか。
答えは、人々が都市を間違えて選んだからではない。
都市が人を引きつける速度と、住宅・土地・インフラを用意する速度が違うからだ。
街は、人が集まった瞬間に完成するわけではない。
世界は、そんなに単純じゃない。
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