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2026年10月1日 · 約5分

ネパール、海外就職が半減しても送金は増えている

湾岸への新規就職は戦争後に約52%減った。それでも家族へ届く送金は21%増えている。数字が逆向きに動く理由を追うと、ネパール経済の強さと危うさが同時に見えてくる。

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Workers sorting waste in a recycling facility in Butwal, Nepal, showcasing environmental sustainability efforts.

湾岸への新規就職は戦争後に約52%減った。それでも家族へ届く送金は21%増えている。数字が逆向きに動く理由を追うと、ネパール経済の強さと危うさが同時に見えてくる。

仕事の入口は細った。でも、お金は増えている

カトマンズの空港では、今日も海外へ働きに出る人と、帰国する人が行き交う。ネパールにとって海外就労は、一部の人だけの話ではない。家族の生活費、学費、住宅、そして国全体の外貨まで、国外で働く人の送金に支えられている。

だから、中東で戦争が始まり、湾岸諸国への新規就職が急減したと聞けば、普通は「ネパールへの送金も減っている」と考える。

ところが、数字は逆だ。The Kathmandu Postの集計では、2026年2月から9月中旬までに湾岸諸国向けに出た新規労働許可は10万9,249件。前年同期の22万8,165件から約52%減った。一方、Nepal Rastra Bankによると、2026/27年度最初の1か月の送金流入は2,150億5,000万ルピーで、前年同期比21.2%増えた。

「海外へ行く人が減ったのに、海外から来るお金は増える」。なぜ、入口と送金が逆方向に動くのだろう。

新規就職が減っても、海外で働く人は急には消えない

最初の答えは、数字が見ている時間が違うことだ。

「新規労働許可」は、これから海外へ働きに出る人の入口を示す。一方、今月届く送金の多くは、数か月、数年前からすでに海外で働いている人が送っている。新しい出国者が今日減っても、海外にいる労働者全体が今日半分になるわけではない。

実際、2025/26年度には新規の海外就労許可が前年より約10万件減った一方、再入国の許可は5万件以上増えたとThe Kathmandu Postは報じている。新しく海外へ出る流れが弱くなっても、すでに海外就労のルートに入っている人が仕事を続けたり、再び同じ市場へ戻ったりしている。

つまり、送金は「今月何人が出国したか」をそのまま映す数字ではない。過去に出国した何百万人もの働き方が、時間差で家計と国の統計に現れる。

しかも、増えた送金の全部が「稼ぎが増えた」わけではない

ここで第二の驚きがある。

送金額が増えたからといって、海外で働くネパール人全員の給料が21%増えたわけではない。

World Bankは、2026年前半まで送金が強く伸びた理由として、より賃金の高い欧州や日本などへの就労先の多様化、ネパール・ルピーの下落、そして銀行やデジタル送金など正式な経路を使う人が増えたことを挙げている。

特に「正式な経路への移動」は、統計を見るときに重要だ。以前から家族へ渡っていたお金でも、非公式な送金網では中央銀行の統計に十分現れないことがある。それが銀行や認可された送金サービスへ移れば、家族が受け取るお金が同じでも「公式の送金額」は増える。

通貨も同じだ。海外から同じドル額を送っても、ルピーが安くなればルピー換算の数字は大きくなる。

つまり「送金21%増」という見出しには、海外での所得、働く国の変化、為替、送金方法という別々の動きが重なっている。

ネパールでは、送金は家計の話だけではない

この逆転が面白いのは、ネパールでは送金が国全体を動かす規模だからだ。

Nepal Rastra Bankによると、2025/26年度の労働者送金はGDPの35.8%に相当した。World Bankも、ネパールの経常収支や外貨準備を支える中心に送金があると分析している。

海外からドルなどの外貨が入れば、ネパールは燃料や機械、医薬品など国外の商品を買いやすくなる。家族が受け取ったお金は、食費や教育、住宅、医療にも回る。送金は「海外で働く一人から家族への仕送り」であると同時に、国の輸入能力や金融の安定にもつながっている。

だから、送金が今も増えていることは安心材料に見える。

しかし、同じ数字を別の角度から見ると、国の安定が国外の雇用市場に大きく依存しているということでもある。

湾岸の求人減は、送金より先に未来を映している

World Bankによると、ネパール人移民労働者の77.3%が中東にいる。サウジアラビア、カタール、UAEだけでネパールへの送金の約37%を占める。

2026年に中東の紛争が長期化すると、観光やホテル、建設などで雇用需要が弱まり始めた。The Kathmandu Postが取材したUAEのホテル料理人は、3月に無給休暇でネパールへ戻され、「数か月後に呼び戻す」と言われたまま約7か月待っていた。

湾岸向け新規許可の減少率は、UAEで約59%、サウジアラビアで約57%。一方でオマーン向けは増えており、すべての国が同じではない。それでも、湾岸全体の入口が急に細くなったことは、今の送金額にはまだ十分現れていない変化だ。

中央銀行も、送金への影響には時間差があると説明している。今届くお金が強いからといって、数か月後も同じとは限らない。新規就職の数字は、送金統計より少し先の未来を映す「先行指標」のように見ることができる。

海外就職は「外貨を稼ぐ仕組み」である前に、人の選択だ

もう一つ忘れやすいのが、送金を増やしているのは統計ではなく人だということだ。

International Labour Organizationの2026年調査では、ネパール人移民労働者のおよそ3分の2が、海外の仕事を得る前に採用関連費用を負担していた。平均すると、その費用を取り戻すまでに3.3か月分の収入が必要で、女性は約4.5か月分だった。

つまり「海外へ行けば稼げる」という入口にも、借金や仲介費用、雇用条件のリスクがある。湾岸の求人が減れば、帰国者が国内で仕事を探す問題も大きくなる。

ネパールの送金は、国外で仕事を得られる人がいるから強い。その強さは、国内で十分な賃金の仕事を作れていないことの裏返しにもなりうる。

送金額だけを見れば「好調」。新規就職だけを見れば「危機」。どちらも本当だ。

「今は増えている」が、いちばん注意すべき瞬間かもしれない

海外就職が半減しているのに、送金は増えている。この矛盾は、統計の間違いではない。

すでに海外にいる人が送り続ける。再入国して働く人もいる。より高賃金の国へ移る人がいる。非公式だった送金が銀行やデジタル経路に移る。為替が数字を押し上げる。いくつもの時間と仕組みが重なって、現在の「21%増」ができている。

だからこそ、送金が増えている今だけを見て「ネパールは湾岸の雇用減を乗り越えた」とは言えない。

むしろ面白いのは逆だ。経済の結果を示す数字がまだ好調なとき、その入口ではすでに変化が始まっている。

ニュースで大きな数字を見たとき、「増えたか、減ったか」だけでは世界は読めない。その数字は、いつ起きた誰の行動を数えているのか。

ネパールの送金が教えてくれるのは、経済には時差があるということだ。

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