JUSTER MEDIA ARTICLE

2026年10月2日 · 約5分

ハバナ、水が出ない原因は「水不足」だけではない

雨が降らないからでも、貯水池が空だからでもない。ハバナでは停電すると水道まで止まる。電気・燃料・水・感染症が一本につながる都市の弱点を追う。

0:000:00
Close-up of a vintage water pump in a traditional Japanese setting, showcasing rustic charm.

雨が降らないからでも、貯水池が空だからでもない。ハバナでは停電すると水道まで止まる。電気・燃料・水・感染症が一本につながる都市の弱点を追う。

水が来たのは、2か月ぶりだった

ハバナ旧市街の集合住宅で暮らすユアミルカ・エチャバリアさんは、夜中に貯水槽へ水が流れ込む音で目を覚ました。停電で真っ暗な中、急いでバケツを満たす。Reutersによると、その建物に水道水が来たのは2か月ぶりだった。

「水不足」と聞くと、まず思い浮かぶのは干ばつや少ない雨だろう。もちろんキューバには気候や老朽化した設備の問題もある。しかし、今のハバナで蛇口を止めている大きな原因の一つは、もっと意外な場所にある。

電気だ。

水は地下や貯水施設に存在していても、ポンプを動かす電力がなければ街まで届かない。ハバナの水問題を追うと、「停電」が照明や冷蔵庫だけの問題ではないことが見えてくる。

キューバの水道は、電気がなければ動かない

ACAPSがまとめた2026年4月の資料では、キューバの水供給システムにある約3,300のポンプ施設のうち、87%が電力網に依存している。Reutersが9月末に報じた数字でも、国内の水インフラの約9割が電動ポンプに頼る。

つまり発電所が止まれば、少し遅れて水道も止まる。

これは単純な「断水」とは違う。水源から水をくみ上げ、処理し、高い場所や離れた地区へ送るには継続した電力がいる。キューバ政府側の説明では、一部の水道システムを安定させるには10〜12時間ほど連続した電力が必要だが、現在はそれを確保すること自体が難しい。

2026年には全国規模の電力網崩壊が繰り返された。国連は7月、ハバナやサンティアゴ・デ・クーバで水のポンプ施設が深刻な影響を受けていると報告している。

第二の驚きは、停電が「水」だけで終わらないこと

停電すると部屋が暗くなる。次に水が止まる。すると、さらに別の問題が始まる。

水がなければ、手を洗えない。トイレを流せない。食器を十分に洗えない。安全な水が手に入らなければ、壊れた配管や非公式な給水場所から水を集める人も出る。

Reutersが取材したハバナの看護師は、自分が働く診療所でも水がなく、患者と患者の間に手を洗いたくても洗えないことがあると話した。別の集合住宅では、住民の間で下痢や発熱が広がっていた。

9月にはキューバの保健当局がウイルス性肝炎を含む感染症の広がりに警戒を呼びかけ、米国側も水・電力インフラの悪化と下痢性疾患の増加を結びつける健康警報を出した。

停電は、電気の問題から水の問題へ、そして公衆衛生の問題へ変わっていく。

冷蔵庫も給水車も、同じ燃料危機につながっている

さらにややこしいのは、「電気がないなら給水車で運べばいい」とも簡単にはいかないことだ。

国連とACAPSによると、燃料不足は発電だけでなく、水を運ぶトラックの運行にも影響している。2026年4月時点では約100万人が給水車に依存していたが、その給水自体もディーゼル不足で不安定になっていた。

家庭では停電で冷蔵庫が使えず、食品を安全に保存しにくくなる。病院では電力、水、医薬品、物流が同時に不安定になる。国連は、エネルギー危機が医療、水、通信、経済活動まで「乗数的」に影響していると説明している。

ここがハバナの危機の核心だ。一つの設備が壊れたのではない。電気、水、物流、衛生という、本来別々に見える都市機能が同じエネルギーに強く依存しているため、一つの不足が別の不足を連鎖させる。

原因を一つにすると、キューバの現実を見誤る

では、なぜ電気が足りないのか。ここは政治的な立場によって説明が分かれる部分でもある。

2026年のキューバでは燃料不足が深刻化し、米国による石油供給への制限が危機をさらに悪化させた。国連も、燃料へのアクセスが人道支援や基礎サービスを維持する決定的な条件になっていると指摘している。

一方、問題は2026年に突然始まったわけではない。発電設備や水道管の老朽化、長年の投資不足、国内経済の弱さも重なっている。UNICEFの2026年文書では、危機が深まる前から安全に管理された飲料水を利用できない人口が46.3%にのぼり、水供給システムのうち再生可能エネルギーを使うものは3.7%にとどまっていた。

「米国の制裁だけ」「キューバ政府の失政だけ」と一つに決めると、現実の構造を取り逃がす。外部からの燃料制約と、もともとのインフラの脆弱性が重なったとき、危機は一気に生活の奥まで入ってくる。

蛇口の向こうには、発電所までつながる都市がある

水道は、蛇口をひねれば水が出る「単独のサービス」に見える。日本で暮らしていると、電気と水を別々のインフラとして考えることも多い。

でも実際の都市は、そんなにきれいに分かれていない。

水をくみ上げるポンプには電気がいる。電気をつくる発電所には燃料がいる。水を運ぶトラックにも燃料がいる。医療には水も電気もいる。どこか一つが長く止まれば、別のサービスが時間差で止まる。

この関係はキューバだけの特殊事情ではない。災害時の日本でも、停電が長期化すれば集合住宅の給水ポンプが止まることがある。違うのは、ハバナではそれが一時的な非常事態ではなく、日常に近づいていることだ。

ハバナの水不足が教えるのは、「水があるか」だけでは水道を語れないということだ。都市の暮らしを支えているのは、一つ一つのインフラではなく、それらのつながりなのかもしれない。

一覧を見る