パラオ、サンゴ礁を守るために畑を直すのはなぜ?
海の環境を守る支援金が、パラオの女性たちのタロイモ畑に向かった。理由は山から流れる泥にある。さらに支援する基金は、寄付金をすぐ使い切らず、運用益で小さな活動を長く支える仕組みを選んだ。

海の環境を守る支援金が、パラオの女性たちのタロイモ畑に向かった。理由は山から流れる泥にある。さらに支援する基金は、寄付金をすぐ使い切らず、運用益で小さな活動を長く支える仕組みを選んだ。
サンゴ礁のための支援金が、畑に届いた
海を守るなら、サンゴを植える。そんな対策を思い浮かべるかもしれない。ところが太平洋の島国パラオでは、海の環境を守るための支援金が、タロイモを育てる女性たちの畑に向かった。
2026年9月、現地メディア『Islands Business』は、パラオのNgrangmui Women’s Groupが「太平洋レジリエンス基金(PRF)」から小規模な助成を受け、伝統的な湿地のタロイモ畑を再生するための道具を購入したと報じた。
海と畑は別々の場所に見える。なぜ気候変動や災害に備えるためのお金が、畑に使われるのだろう。答えをたどると、島の水の流れだけでなく、世界の気候支援の届け方まで見えてくる。
山から流れる泥を、海に着く前に止める
パラオで「メセイ(mesei)」と呼ばれる伝統的なタロイモ畑は、水をたたえた低い土地にある。現地の女性グループによれば、その水路や畑を手入れすることには、食料を育てる以上の意味がある。
雨が降ると、山や陸地から土砂が水に混じって下流へ向かう。手入れされた湿地の畑は、そうした土砂を途中で受け止める役割を果たし得る。泥が海まで流れ込めば、サンゴ礁に負担がかかるためだ。
グループのメンバーは、畑の水路を整えれば山から流れてくる土砂を捕まえ、よりきれいな水を海へ送れると説明している。これは現地の実践者による説明であり、今回の助成だけでサンゴ礁がどれほど改善したかを示す測定結果ではない。
それでも「海の問題を海の中だけで解決しない」という発想は、十分に意外だ。
畑は、食料と女性たちの知識も守っている
メセイにはもう一つの役割がある。タロイモは食卓を支える作物であり、畑の手入れは母系的な文化や世代間の知識の継承とも結びついている。
パラオでは、年長の女性が若い世代と一緒に畑を再生し、水の扱い方や土地の知識を伝えている。畑がなくなれば、食料生産だけでなく、地域で受け継いできた暮らしの技術も失われかねない。
別の事業であるKiwa Initiativeの「Women’s Work」も、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島の女性たちを中心に、タロイモ畑やマングローブなどを再生する取り組みを進めている。こちらはPRFとは別の事業だが、海岸を守る活動と地域の食料・文化を切り離さない点が共通する。
サンゴ礁の保護は、海洋生物だけの話ではない。島で誰が水を管理し、何を食べ、どんな知識を次の世代へ渡すかという話でもある。
そもそも、なぜ国際基金は畑を支援しにくいのか
ここから、もう一段深い問題が現れる。パラオの女性たちの活動は、地域にとって意味があっても、従来の大規模な気候基金から資金を得やすいとは限らない。
クック諸島の首相は2026年9月、世界的な気候基金は重要だが、手続きが遅く複雑で、大きな事業を前提に設計されていると指摘した。小さな島の小さな団体が必要とする道具や水槽は、巨大な事業の審査制度と相性がよくない。
そこで太平洋の国々は、地域が主導するPRFをつくった。2025年に15の国・地域の首脳が設立条約に署名し、2026年5月に条約が発効。太平洋の国々が所有し、地域の小規模事業へ助成するための仕組みが動き出した。
最初の実証事業では、参加する国・地域に最大2万米ドルの枠を設け、パラオの畑だけでなく、飲み水の確保や学校の給水設備なども対象になった。
驚くのは、集めた寄付金をすぐ使い切らないこと
さらに意外なのは、基金のお金の使い方だ。普通の寄付なら、集めたお金を必要な活動へ配ると考えるだろう。
PRFが目指す長期的な仕組みは違う。政府や支援国から集めた資金を元手として運用し、そこから生まれる運用益で、地域への小さな助成を継続する。基金の代表は2026年8月、この仕組みを「予測可能で持続的な支援」のためだと説明した。
つまり、毎年の国際会議で支援をお願いし続けるだけでなく、地域自身が長く使える財源を持とうとしている。気候災害は一度きりではないからだ。
ただし、運用には損失のリスクがあり、利回りが低ければ配れる額も小さい。2026年に始まった小規模な実証助成を、すでに運用益だけで賄っているという意味でもない。長期的な基金モデルと、現在の試験的な助成は区別して考える必要がある。
「約2億ドル集まった」と「使える」は違う
2026年10月7日、フィジー、アイルランド、オランダ、デンマークなどが合計約1,500万米ドルの追加拠出を表明した。Reutersによると、PRFへの拠出表明額は2億米ドル弱となった。
ただし、当面の目標は5億米ドル、長期目標は15億米ドル。必要とされる規模にはまだ届いていない。しかも、表明された金額と実際に振り込まれた金額は同じではない。
8月末のPINA報道では、当時1億7,300万米ドルの拠出表明があった一方、実際の入金は約1,000万米ドルにとどまっていた。これは8月時点の数字であり、10月の入金残高を示すものではない。
基金を運用して助成を続けるには、まず元手が必要だ。お金を「約束する」ことと、島の女性たちが実際に使える状態にすることの間にも、距離がある。
日本も、この基金にお金を出している
実は日本もこの話の外側にいない。太平洋諸島フォーラム事務局によれば、日本政府は2025年3月、PRFに4億1,700万円(約300万米ドル)を拠出すると発表した。
海に囲まれ、台風や豪雨への備えを続ける日本にとっても、災害対策は身近な問題だ。ただし日本のような大きな国と、人口や行政人員が限られる島国とでは、資金を申請し、事業を管理する負担の重さが違う。
だからこそ、PRFが問うているのは寄付の総額だけではない。遠い会議室で決まった支援が、パラオの畑や島の給水設備まで、どれほど早く、無理なく届くかということだ。
サンゴ礁を守るお金は、どこへ届くべきか
パラオのタロイモ畑を直せば、海が必ず回復するとは言い切れない。サンゴ礁には海水温上昇など別の大きな脅威もあるし、畑の再生がどの程度の土砂を止めたかは検証が必要だ。
それでも、女性たちが畑を手入れするという小さな活動は、海・食料・文化を一度につなげている。気候対策は巨大な堤防や最新技術だけでできているわけではない。
そして、太平洋の国々が自分たちの基金を持とうとするのは、「何にお金を使うべきか」を、遠くの支援者だけに決めさせないためでもある。
サンゴ礁を守るための予算を見たとき、私たちは海の中の事業を探しがちだ。だが本当に必要な支援先は、山と海の間にある小さな畑かもしれない。
参考・出典
- Reuters — Pacific’s new climate fund gets $15 million boost but remains far below target (2026-10-07)
- Islands Business — Pacific Resilience Facility pilots community grants (2026-09-03)
- Pacific Islands News Association (PINA) — Pacific Resilience Facility moves to collect US$173 million in pledges (2026-08-31)
- Pacific Islands News Association (PINA) — PRF takes Community Projects to COP31 as Pacific Fund starts moving money (2026-09-02)
- Pacific Islands Forum Secretariat — Pacific Resilience Facility Receives First Capitalisation Contribution from Japan (2025-03-10)
- Kiwa Initiative — Women’s Work: Empowering women to restore coastal ecosystems and strengthen food security in Micronesia (2026-04-14)
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