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2026年10月18日 · 約5分

バングラデシュ、予防接種率が「100%超」?

はしかの緊急接種で「対象者の100%超」を達成したバングラデシュ。それでも感染は止まらなかった。後から別の保健事業が示したのは、そもそも「子どもが何人いるか」という推計自体の食い違いだった。

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A cheerful young girl receives a band-aid after a vaccination at a clinic.

はしかの緊急接種で「対象者の100%超」を達成したバングラデシュ。それでも感染は止まらなかった。後から別の保健事業が示したのは、そもそも「子どもが何人いるか」という推計自体の食い違いだった。

「100%を超えた」のに、なぜ病室が埋まるのか

「接種率100%超」。予防接種のニュースで、こんな数字を見たらどう思うだろう。対象の子ども全員にワクチンが届き、予定を上回る成果を出した。普通なら、そう受け取るはずだ。

2026年のバングラデシュでは、はしかの緊急予防接種について、実際に対象者数を超える接種実績が報告された。ところが感染は終わらない。10月9日までの世界保健機関(WHO)の集計では、3月中旬以降の感染疑いは約20万2,000件、検査で確認された感染は約2万2,000件。はしか関連として報告された死亡は1,147人に上った。死亡の94%は5歳未満だった。

ワクチンが効かなかったのだろうか。そう結論づける前に、もっと基本的な疑問がある。接種率の「100%」は、いったい誰を分母にした数字なのか。

接種率は「打った人数÷想定した人数」で決まる

2026年4月、感染が急増したバングラデシュは緊急接種を始めた。対象は主に生後6〜59か月の子ども。4月20日から全国に広げ、4〜5月に約2,000万人への接種を進めた。

米疾病対策センター(CDC)の専門誌に掲載された現地研究者の分析によると、5月13日には行政上の接種実績が当初の対象人数の100%を超えた。だが、この数字は全国のすべての子どもが接種を終えたという意味ではない。

行政上の接種率は、接種した数を、事前に推計した対象人数で割って出す。分母が実際の子どもの数より小さければ、100%を超えることもある。研究は、一部の行政接種率で古い国勢調査を基にした人口推計が使われ、過大な接種率を生む可能性を指摘した。

数字の見た目が大きいことと、取り残された子どもがいないことは、別の話なのだ。

5月の「達成」の裏で、感染は続いていた

緊急接種は無意味だったわけではない。実際、初期には感染の増加が鈍り、接種を受けた多くの子どもが守られたと考えられる。ただ、はしかは非常に感染力が強く、十分な免疫を持たない人が集まると広がりやすい。

CDCの分析では、5月7〜13日の1週間に1万427件の症例が報告された。行政上の接種実績が100%に達した時期と重なる。ただし、接種してすぐに免疫が完成するわけではなく、緊急接種の効果が集計に表れるまで通常2〜4週間ほどかかる。二つの数字が同じ週に並んだからといって、ワクチンが効かなかった証拠にはならない。

問題は、緊急接種が始まる前から免疫のない人が多くいたことだった。2024年には1回目96%、2回目93%だった推計接種率が、2025年にはそれぞれ90%、86%に低下。ワクチン不足や接種活動の中断が重なっていた。

子どもの数を教えたのは、別の栄養事業だった

ここからが、さらに意外な展開だ。

5月までの緊急接種で、政府は対象年齢の子どもをほぼ全員カバーしたと説明した。ところが6月、別の保健事業が作成した対象者名簿には、同じ年齢層の子どもが、はしか接種の対象者数より約400万人も多く載っていた。

それはビタミンAの補給事業だった。目の健康や栄養状態を守るために行う、ワクチンとは別の取り組みだ。はしかの流行を止めようとした接種事業よりも、別の健康支援事業のほうが、子どもの人数を多く把握していたのである。

もちろん、二つの事業の対象者数の差だけで「400万人が未接種だった」とは断定できない。推計方法や更新時点も異なる。それでも、政府が使う「子どもは何人いるか」という基本的な数字が一致していなかったことは、見過ごせない。

出生登録のない子どもは、約4割いる

人数を数える難しさは、予防接種だけの問題ではない。

バングラデシュ統計局とUNICEFの2025年調査では、5歳未満の子どもの出生登録率は約59%。つまり約4割は、出生が行政に正式登録されていなかった。出生証明書を持つ子どもは約47%にとどまる。

ただし、出生登録がない子どもが、必ずワクチン未接種というわけではない。出生登録と予防接種の記録は別の仕組みであり、登録がなくても接種を受けている子どもはいる。逆に、出生登録があっても接種機会を逃すことはある。

それでも、住民の情報が十分に結びついていなければ、担当者は「どの子にまだ会えていないのか」を確かめにくい。問題は、ワクチンの在庫だけではなく、子どもの存在を正しく把握する仕組みにもあった。

まだ接種年齢ではない赤ちゃんも、感染した

もう一つ、接種率だけでは見えない人たちがいる。生後間もない赤ちゃんだ。

バングラデシュの通常のはしか・風疹ワクチンは、生後9か月から始まる。WHOが4月に公表した初期の流行状況では、報告された感染疑いの約3分の1が生後9か月未満だった。まだ通常の接種対象になっていない乳児まで、感染が広がっていた。

乳児は母親から受け取った抗体で一定期間守られることがある。しかし、その保護は永続しない。周囲に免疫のない人が増えると、まだ自分では通常接種を受けられない赤ちゃんも危険にさらされる。

このため、緊急接種では対象年齢を生後6か月まで引き下げた。家族の選択だけでは守れない人がいるからこそ、地域全体で感染を広げないことが重要になる。

今、バングラデシュが調べ直していること

9月26日、政府は新たに340万人を対象とする追加接種を開始した。対象には以前の活動で接種機会を逃した子どもや、新たに生後6か月に達した乳児が含まれる。接種は10月31日まで続く予定だ。

さらに10月4日から14日にかけて、WHOなどの協力による予防接種制度の独立点検が予定された。調べるのはワクチンの供給だけではない。保健人材、冷蔵設備、接種会場、接種率データ、感染の監視、保護者への情報提供まで、仕組み全体だ。

急いで接種を増やすことは必要だった。ただ、誰がまだ対象から漏れているか分からなければ、次の緊急事態でも同じことが起きる。今後の報告で、どの対策が実際に届かなかった子どもを減らしたかを確認する必要がある。

「100%」よりも、最後の一人を数えられるか

今回の話を「ワクチンを打っても意味がない」と読むのは、まったく逆だ。はしかのワクチンは有効で、日常的に高い接種率を保つことが流行を防ぐ基本になる。緊急接種も、多くの子どもを守るために欠かせない。

ただし、予防接種には二つの仕事がある。一つは、目の前の子どもにワクチンを届けること。もう一つは、まだ会えていない子どもが誰なのかを知ることだ。

バングラデシュでは「100%超」という数字の後に、別の事業が数百万人規模の人数の食い違いを示した。感染症の対策を測るなら、配った量や接種した数だけでは足りない。

最も重要なのは、記録の中で達成率を上げることではなく、記録から抜け落ちた子どもを見つけることなのかもしれない。

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