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2026年9月29日 · 約5分

イラク、医療を卒業しても働けない?

未採用の医療卒業生は約19万人。それなのに、医療現場には人が足りない。

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Surgeons wearing masks and scrubs collaborate during a medical operation in an operating room.

病院の前で、医療卒業生が「働かせて」と訴える

医学や薬学、医療技術を学び終えたのに、病院で働けない。2026年9月、イラクのバグダッドでは医療・保健系の卒業生が政府機関の前に集まり、採用を求めた。27日にはクルディスタン地域のスレイマニヤでも、2024〜2026年卒の医療系卒業生が同じ要求で行進した。

ここまでは「若者の就職難」に見える。

でも、イラクの医療卒業生には普通の失業とは違う事情がある。Shafaq Newsの報道によると、対象となる医療・保健・薬学系卒業生は、公的機関で必要な勤務・研修を終えなければ、原則として民間で正式に働くための資格を得られない。

つまり政府に採用されないと、「じゃあ民間病院で働こう」と簡単には切り替えられない。医療を学んだ人を医療現場へ送り出すための制度が、採用が止まった瞬間、逆に入口をふさぐ。なぜこんなことが起きているのだろう。

「政府が雇う」は、もともと医療を守る仕組みだった

背景にあるのが、医療・保健職のキャリア形成を定めた2000年の法律だ。卒業後に公的な病院や診療所で勤務・研修を経験させ、専門職として必要な実務経験を積ませる仕組みが作られてきた。

政府による配置には合理性がある。新人を監督下で育てられる。人手が必要な公的医療機関へ配置できる。地域ごとの医療人材を行政が調整することもできる。

長い間、「卒業したら政府が受け入れる」という期待は学生側にも組み込まれてきた。

ところが、大学から出てくる人数が国家の採用枠を上回り始めると、この仕組みの意味が変わる。就職への道だった制度が、政府採用を待つ巨大な列を作り始めた。

3学年だけで、未採用は約19万人

イラク議会の委員会が2026年2月に示した推計は大きい。

未採用の医療・保健系卒業生は、2023年卒が約2万1,200人、2024年卒が約7万2,000人、2025年卒が約10万人。合計すると約19万3,200人になる。

しかも委員会は、今後6年間でさらに約50万人が卒業すると見込んだ。

そこで議会は、残る卒業生を卒業年順に吸収すること、他省庁の病院や医療施設も活用することに加え、医療・保健系の大学・学部をむやみに増やさず、入学者数を国の需要に合わせることまで提言した。

問題は「求人サイトを増やせば解決する失業」ではない。教育制度が生み出す人数と、国家が用意できる研修・雇用の席数がずれている。

ここで、もう一つの矛盾が出てくる

医療人材が余っているなら、イラクの病院は人で十分なはずだ。

ところが現実はそう単純ではない。

イラク保健省は2026年3月、医師不足への対応策を各機関へ通知した。WHOが公開するイラクの保健人材戦略でも、地方や周辺部のプライマリ・ヘルスケア施設では熟練人材の不足や離職が課題とされている。2021年のデータでは、イラク中南部のプライマリ・ヘルスケア施設1,906か所のうち、医師がいる施設は54%だった。

「医療卒業生が大量に仕事を待っている」と「医療現場には人が足りない」が、同時に存在する。

人数だけ見れば矛盾している。でも、必要なのは単なる総人数ではない。どの職種を、どの地域に、どの予算で、どんな研修を付けて配置できるかが重要になる。

人が足りないのに雇えないのは、なぜ?

病院に需要があっても、公務員のポストは無限には作れない。給与を払う予算、研修を担当する人、病院の受け入れ能力、配置する地域などが必要になる。

一方、学生側から見れば、大学への入学は数年前の判断だ。卒業するころに採用枠が足りなくなっても、すでに長い教育を終えている。

しかも制度が政府勤務を資格取得の入口に置いてきたため、「公務員になれないなら民間へ」という市場調整も働きにくい。

ここが第二の驚きだ。イラクの問題は、医療人材が単純に「多すぎる」のでも「少なすぎる」のでもない。教育、免許、政府採用、予算、地域配置が一つの経路に強く結びついているため、ある場所では卒業生が余り、別の場所では医師が足りなくなる。

政府も、出口を作り直し始めている

2026年1月、保健省は未採用の2022〜23年、2023〜24年卒の一部を対象に、2年間の国家研修プログラムを設け、民間部門で働くための資格につなげる方針を示した。一般医学の2023〜24年卒には、医療機関の不足を埋めるための契約手続きも案内した。

議会では法律そのものの改正も議論されている。

これは単なる「採用人数を増やす」対応とは違う。政府が全員を永久に雇うことを前提にした入口から、研修と免許を政府雇用そのものから少し切り離す方向を探っていると読める。

ただし移行は簡単ではない。学生は既存制度を前提に進路を選んできた。急にルールを変えれば、「約束されていた権利を失った」と感じる卒業生が出る。

医学部を増やせば、医療が良くなるとは限らない

医師や医療職が足りない国で、医療系の学生を増やす。直感的には正しい。

でも卒業後の研修、免許、雇用、地域配置まで一緒に増やさなければ、学生数だけを増やしても医療現場の人手にはならない。

イラクでは今、そのずれが見えている。

必要なのは「何人卒業させるか」だけではない。「どこで研修させるか」「誰が給料を払うか」「都市ではなく人手不足地域へどう動かすか」「民間でも経験を積めるようにするか」まで、一つの流れとして設計することだ。

資格はある。でも、働けるとは限らない

大学を卒業することと、社会でその専門性を使えることは同じではない。

イラクの医療卒業生の問題は、その間にある「制度の入口」を見せてくれる。

国家が若者を守るために作った研修・配置制度も、教育の拡大や財政の変化に合わせて更新されなければ、若者を待機させる仕組みに変わりうる。

そして最も奇妙なのは、働きたい医療卒業生と、人手を必要とする医療施設が同じ国に存在しながら、制度上はうまく出会えないことだ。

「人材不足」とは、人の数が足りないことだけではない。必要な人を、必要な場所へ動かせないことでもある。

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